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「顔、上げてください。」
しばらくしてから、沖田の声がナツの耳に届いた。
ゆっくりと頭を上げると、沖田の視線とぶつかった。
「記憶が戻って、良かったですね。」
沖田は微笑む。
「ありがとうございます。沖田さんも、身体大事にしてくださいね。」
ナツも、笑って答えた。
・・・・・ちゃんと笑えてる、私?
ナツは、沖田に向かって、右手を差し出す。
「?」
沖田は首を傾げる。
「握手。私の故郷での、お別れの挨拶です。手を、握ってもらえませんか?」
そして、固く結ばれた手。
沖田の手は思っていたより大きくて、ゴツゴツしてて、硬かった。
お互いに、離すのが名残惜しくて、その手を解くことができない。
ふっと、沖田の手の力が強まり、ナツは彼の腕の中に引き寄せられた。
「このままで。」
彼の声も、身体も、かすかに震えていた。
ナツはそっと目を閉じる。
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