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一瞬、私たちの気が彼からそれた時、彼は襖を蹴破り、隣の部屋へと移動しました。
その部屋では、八木家の人々が休んでいました。
が、隣で大きな物音がするのを聞きつけ、皆目を覚まして、部屋の片隅で怯えています。
暗闇の中、目だけが爛々と光っておりました。
四つんばいになってそちらへ向かった男は、こちらへ向き直り、体制を整えなおしました。
「来い!」
私は、彼に斬りかかってゆきます。
弾かれた刀が、八木家の子供の足にかすりました。
「うあぁ!」
両親が、子供を庇うように抱き込み、丸くなって固まります。
彼は部屋を出て、縁側のほうへと場所を移します。
激しい雨は、まだ降り続いています。
雷鳴の轟く中、男は私に言い放ちました。
「迷うな!心強くあれ!」
私は呼吸を整えると、刀を平晴眼に構え、必殺の突きを繰り出す。
刀の切っ先が、彼の胸に吸い込まれてゆく。
手に伝わる、人の肉を絶つ感触。
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