事象の地平面にて恋過る

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一ヶ月前 「外に行きたい」 独り言のようにポツリと呟いた私は、教室を抜け出し屋上へと向かった。 授業が始まる時刻が近づき、人数の減った廊下を滑るように歩く。 金木犀の香る初秋。 高校2年の私は無気力に自由気ままに過ごしている。 入学当初の緊張感も、進路の心配もそれ程実感しないこの時期は、私をより一層平坦に仕立て上げた。 周りと深く関わらず、執拗に集団行動に固執する事もなく。 自分にストレスが掛からない適度な距離感で俗に言う『青春』とやらに溶け込んでいる。 唯一の趣味と言えば〝死体を見ること〟かしら。 私の名前はヨゾラ。 名前と言っても自殺に関するコミュニティサイト上での架空の名前だ。 現実でその名を呼ぶ人はいない。 ヨゾラはもう一人の私。 死体に興味を抱く、知り合いには決して見せることのない一面の人格。 教師達に見つからないように屋上へと向かう階段に差し掛かった。 この時はまだ、一般的な平凡の許容範囲内で過ごしている私が、非現実的な世界と出会うのが僅か数分後だとは夢にも思っていない。
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