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「出よ! 赤葉楓太郎!」
覇偉栖の一喝が楓山にこだまする。それに呼応するように、周囲の木々がざわめく。
ひとかたまりになった家来たちは身を硬くして、唾を飲み込む。
そうすれば、木々の間から、抜き身を肩に担いだ浪人風情の男が十人ほどの子分たちとともに現れるではないか。
これなん、赤葉楓太郎とその一味である。
「うるせえな。そんなでかい声出さなくても聞こえてらあ」
楓太郎はにやけ面して、覇偉栖を見据えている。黒づくめの装いは珍しそうだが、一見して強くなさそうな覇偉栖をなめきっている。
「おぬしが赤葉楓太郎か」
「ああ、そうだ。で、俺を成敗するって?」
「いかにも」
「がっはっは!」
風太郎をはじめとする子分たちは大笑いだ。いままでそうして来た者があったが、ことごとく返り討ちにしてやったものだ。その笑い声には、自信がみなぎっていた。
「おいおっさん。悪いことは言わねえ。とっとと帰ってマスでもかいてな」
「マスをかけ、か……。ふふん。己を慰めずとも、女に慰めてもらうさ」
「ああ?」
物怖じせずに言い返す覇偉栖の態度に、楓太郎は眉をひそめた。今までの討伐隊とは違う。わずかな供をつれた男が楓太郎らを成敗するということは、初めてのことだったが。この男、何者だ。
「おお、名乗りがまだであったな。我が名は佐久璃覇偉栖。地獄で獄卒どもに我が名を伝えるがよい」
「なんだと? おいおっさん、やけに自信満々じゃねえか」
「それはそうだ。勝つのは私だ」
「そうか……」
そう言うと、楓太郎は太刀を構えて、
「なら、勝ってみやがれ!」
だっと覇偉栖向かって駆け出し。太刀はうなりをあげる。
うひょー、と子分どもは喝采を送り。付き添いの家来たちは、ああ、と悲鳴をあげる。この一撃で、覇偉栖の脳天は叩き割られる、と誰しもが思った。
「魔術・地獄の門!」
覇偉栖がそう吼えるやいなや、途端にその顔は漆黒の闇の影に覆われて。その影から、腕が飛び出すではないか。
「なに?!」
太刀を振るう楓太郎は我が目を疑った。しかし次の瞬間、覇偉栖の脳天まで迫った太刀は飛び出した拳に叩き折られてしまった。
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