第四話 改心

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 人間必死になれば通常の倍の力が出るものか。  韋駄天にでもなったかのように速く駆けて、村人の追撃を振り切った。  足を止めることはなかった。 (殺される)  という恐怖心が楓太郎を突き動かして、駆けさせていた。  どこをどう走ったかなど覚えているはずもなかった。  そのまま陽は暮れて夜の帳が落ちても、楓太郎は駆けた。駆けねば命はない、と。  しかし人間である以上は限界はあって、足も力が尽きて、ついにはばたりと倒れてしまった。  同時にひどい疲労が全身を襲い、さきほどまでの活力はどこへやら。生存本能もどこかへ行ってしまったのか。 「もう、どうでもえいわ……」  と、疲労感が言わせたのかどうか、そのまま瞳を閉じて眠りこけてしまった。  眠ってどのくらい経ったのか。目覚めればまだ夜で、どうにか起き上がって走ろうとしたとき。  目の前に、あの鬼があらわれたではないか。 「う、うわああ」  喉から炸裂するような悲鳴をあげて逃げ出そうとするが、途端に肩をつかまれてしまい。そのまま持ち上げられてしまった。 「助けてくれ! 助けてくれ!」  泣きじゃくりながら懇願するも、鬼は「ふふふ」と笑い、大きな牙が見えるほどに大口を開けて楓太郎を食らおうとする。 「いやだ、死にたくない!」  頬に激しい痛みが走った。鬼にびんたされた、と思った瞬間に、 「う、うわああああああ!」  と叫んでぱっと目が開き。上半身を起こした。 「きゃっ」  という黄色い声がした。 「え、あれ」  楓太郎はきょとんとして周りを見回した。自分はどこかの川の川原にいて、そこで倒れてしまったようだ。 「三途の川?」  自分は鬼に殺されて三途の川にやってきたのであろうか? と思ったとき。 「ちょっと」  という声がして、その方へ振り向けば。そこには、若い娘がいた。 「……?」 「なんだ、生きてるじゃない」  娘はふうっとため息をついて、きょとんとする楓太郎を見やった。 「あ、ああ」  思わず、楓太郎は腰を引き摺るように後ずさった。この娘は鬼女ではないか、と。 「大丈夫よ、とって食いやしないよ」 「お、鬼……」 「鬼? どこに鬼がいるのよ」 「う、うう」  楓太郎は娘を指差した。 「あたしが鬼ですって! 馬鹿言わないでよ!」  娘はかんかんに怒った。 
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