第四話 改心

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「鬼じゃない?」 「当たり前でしょう!」  娘は頭を指差し、 「ここに角がある? ないでしょう。あんた悪い夢にうなされてたのよ」 「夢?」 「そうよ。鬼、鬼ってうなってたわよ」 「……」  楓太郎は黙りこくった。楓山で見た鬼は夢だったのだろうか。ふと、脳裏にあの悲惨な光景が蘇る。 (いや、あれは夢じゃない!)  子分たちが無惨に殺され肉塊にされてゆく。この目で確かに見て、自分は臆病になって逃げ出したのだ。  それから村人たちに追われて。  そこまでは思い出し、 「いや、夢じゃない。鬼に殺されそうになったんだ」  と言った。 「はぁ?」  娘は呆れたように、楓太郎をまじまじと見やった。 「鬼に襲われたの?」 「そうだ。俺は鬼に襲われたんだ」  それを聞いて、娘は少し、ぶるっと震えた。少し、楓太郎の話を信じたようだ。  鬼にまつわる言い伝えはいたるところにあり、それはたいていが、人を襲い食い殺すなどの、悲惨なものである。 「大変じゃない。あたしらの村にも来るかしら……」  そう言うと娘は楓太郎のそばまで来て、腕を掴む。 「立てる?」 「あ、ああ、どうにか」 「じゃ立って。あたしらの村に来て。鬼が来るかもしれないことを皆に教えなきゃ」 「……」  楓太郎は娘に支えられて、どうにか立ち上がった。そのとき、 「あたしはお品」  と名乗った。しかし楓太郎は名乗らない。少しずつ冷静さを取り戻しつつあった楓太郎は、名乗ってよいものかどうか悩んだ。  己の悪名、悪行はどこまで届いているのであろう。もし名乗って、 「あの赤葉楓太郎!」  と驚かれて役人に突き出され、あるいは村人にこっぴどく痛めつけられて殺されるかもしれない。 「あんた、名前は?」  案の定お品は名を聞いてくるが、楓太郎は黙ったまま。というときである。 「お品ではないか」  という声がした。その方を振り向けば、ひとりの僧侶がいた。 「あ、妙蓮坊(みょうれんぼう)さま」 「どうしたのじゃ。その男は?」  妙蓮坊と呼ばれた僧侶はしずかに歩み寄り、楓太郎を見つめた。 「妙蓮坊さま、大変です。鬼が出たそうです。この人、鬼に襲われたって」 「鬼じゃと」 「はい、いそいで皆の衆に教えないと」 「ふむ。それは一大事じゃな。まずは寺に来なさい」 「はい」  僧侶はお品の反対側で楓太郎を支えると、寺へと向かって三人歩き出した。
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