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お品と妙蓮坊は楓太郎を両側から支えて歩く。
歩けば集落に入り、人々は怪訝な顔をして三人を見送った。
「妙蓮坊さま、皆に教えなくていいの?」
「いま慌てて教えれば恐慌を来たす。まずは寺で彼の話を聞こう」
「そうですね」
楓太郎は支えられながら、黙って、己のこれからを考えた。偽名を使えば、助かるかもしれない。などと考えていたとき。
「ぬしゃ、赤葉楓太郎じゃろう」
と、妙蓮坊は小声でぽそっと言った。言われて楓太郎はどきりと、妙蓮坊を見やった。
「赤葉楓太郎?」
「しっ」
お品が不思議そうにするのを見て、妙蓮坊は黙るようにうながした。
「俺を知っているのか?」
「まあな。じゃが話は寺でじゃ。それまで黙っておれ」
人々の怪訝な眼差しを受けながら、三人は寺に入った。
お堂に入れば、中央に南無妙法蓮華経と書かれた大曼荼羅が掛けられている厨子(ずし)があった。
その大曼荼羅の入った厨子の前に檀があり、供養の品がいくらか供えられて。それ以外にはなにもなく、簡素な小寺であった。
「あ、あたし水を汲んできます」
「うむ」
楓太郎をお堂の真ん中に座らせると、お品は立ち上がって井戸に向かった。妙蓮坊も座り楓太郎と向き合っている。
「このような成り行きで赤葉楓太郎に会うとは思わなんだぞ」
「……」
楓太郎はしばし黙ったあと、
「俺をどうする?」
と言った。妙蓮坊はふっと笑い、
「そうさな」
と腕を組んで思案する仕草を見せる。
「本当にぬしゃ悪人面じゃのう」
「からかうな」
「いやすまぬ。そうじゃのう、おぬしをどうしようかのう」
「……」
そうしているうちにお品が水を入れたお碗を持ってきて、ふたりの前に置く。
楓太郎は碗を手にして、水を一気に飲んで、一息つく。
「落ち着いたかの?」
妙蓮坊は笑顔で言う。相手が赤葉楓太郎と知ったうえでだ。楓太郎もこんな対応をされたことがなくて、少し戸惑っているようだ。
「ねえ、妙蓮坊さま。この人、赤葉楓太郎っていうの? どうして知っているの?」
「うむ、わしが各地を巡業しておったころにな、番場重時なる大名の領にて、こやつの人相書きを見たのよ」
「え、人相書き?」
「左様。こやつはの、なうての山賊じゃて」
妙蓮坊はかっかっかと笑いながら楓太郎を指差した。
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