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時は戦国。
群雄が割拠し、血で血を洗う戦乱の、修羅の世であった。
修羅の世にあって、人の心も荒み。弱き者たちはこの世を嘆いた。嘆きながらも、精一杯生きた。
しかし、その精一杯の生き方も、十人十色。
ここに、乱世を生きる男がいる。その浪人風情の男は、山道を覆う楓の木々の間に隠れて、何かを待っているようであった。
目は異様にぎらつき、まるで餓えた狼のごとし。
左手は腰に佩く太刀を抜けるようにいつでも構えられている。そうしてしばらくの時を過ごせば、待っているものが、来た。
「気をつけろ。この楓山(かえでやま)は、奴が出るぞ」
と、誰かが言った。それは甲冑を身にまとった武者であった。
それを先頭に、十名ほどの武者も続いて。その武者たちは、人足の曳く(ひく)車を囲んでいた。
車にはいくつもの米俵が積まれていた。領主への年貢としての米を納めるために城下にゆく一団である。
時節は秋である。紅く染まった楓の葉が山をいろどる。この楓山はその名のとおり、楓が多く。毎年秋には紅葉によって紅く染まる。
しかし人はその紅葉に、乱世を忘れて和みのひと時を味わうことはなく。
楓山をのぼる者は、いつでも戦が起ってもよいように備えるのだ。
乱世である。備えをするのは当然のこととはいえ、集落から城下へと通じる唯一の道のある楓山にゆく者はことさらに緊張を覚えざるを得なかった。
武者の言った「奴」が出るからである。
楓の木々の間に隠れていたその浪人風情の男は、すらりと太刀を抜き。ぎらつく目は一団を、米俵を見据えて。
地を踏む脚に力をこめて、だっと駆け出した。
「おおおッ!」
楓山に雄叫びがこだまする。
「やッ!」
「来たぞ!」
「赤葉楓太郎(あかばふうたろう)じゃ!」
武者たち数人は咄嗟に車を囲み太刀を抜き。数人は赤葉楓太郎と呼ぶ浪人と対峙した。
「どけッ! 雑魚どもッ!」
楓太郎は太刀を閃かせて武者たちへと勢いよく駆ける。
「おりゃあ!」
ひとり、楓太郎に向かって太刀を閃かせた。ぶうん、と勢いよく、太刀はうなりをあげて赤葉楓太郎を斬らんと迫った。
しかし、振り下ろされる太刀はいとも簡単にさけられて。それと入れ違いに、楓太郎の太刀が武者を鎧ごと袈裟懸けに斬った。
それは一瞬のことで。おお、とどよめきがおこる。
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