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赤葉楓太郎が年貢米を強奪したことはすぐさまに集落や城下へ知れ渡り。
領主の番場重時(ばんばしげとき)は激怒した。
「またしても、赤葉楓太郎か……!」
城の城主の間にて、家来たちが見守る中上座にて立ち上がって歯軋りし、持っていた扇子を力任せにへし折った。
ここ数年、楓山にて楓太郎に年貢米や貢物が強奪されて。討伐隊を組織して討ち取ろうとしたものの。
楓太郎は強く。また地の利を生かして仲間たちとともに討伐隊を返り討ちにしていた。
重時にとって、楓山の赤葉楓太郎は頭痛の種であった。
隣国との戦のために、糧食の確保は喫緊の課題である。これではいかに集落を締め上げて年貢を納めさせようとも、意味がない。
「殿、いかがいたします」
家来のひとりがそう言うと、重時は忌々しそうに家来を睨んで折った扇子を投げつけた。
「わかりきったことを問うな。なんとしても、楓山の赤葉楓太郎を討ち取らねばならぬのだ!」
「し、しかし、赤葉楓太郎は強く。誰も歯が立ちませぬ……」
家来は頭に当たった扇子を拾いながら、重時にそう言った。そうとしか言いようがないのである。
楓山は制圧せねばならぬ。しかし、隣国との戦もあって、兵力もそうそう割けることも出来ぬ。
「ううむ。いかがしたものか」
重時はうめき、歯軋りをしっぱなしで。家来たちも、なにも進言できぬ有様であった。
その時である。
「殿!」
と武士が城主の間に来て。重時を呼んだ。重時は鬱陶しそうに、
「なんじゃ」
と応えた。
「は、佐久璃覇偉栖(さくりはいす)と名乗る者が来て、殿に会いたいと。赤葉楓太郎を仕留める術を持っていると申しておりますが。いかがいたしましょう」
「なに?」
佐久璃覇偉栖なる者の名は知らず。ただ会いに来ただけならば、追い返せ、と言うところだが。赤葉楓太郎を仕留める術を持っている、と言うことか重時の興味を引いた。
「ほう、赤葉楓太郎を仕留める術か。面白い、会ってやろう。案内いたせ」
「はは」
武士は下がって、しばらくして一人の男を連れてやってきた。その男が佐久璃覇偉栖であろう。
(なんと妖げな)
重時をはじめ家来たちは覇偉栖をまじまじと見やった。
総髪を肩まで伸ばし、太刀も襦袢袴全て黒ずくめの装いであった。
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