第二話 謎の男・佐久璃覇偉栖

3/4
前へ
/38ページ
次へ
 佐久璃覇偉栖なる男は不敵な笑みを浮かべて、重時の前で跪く。 「佐久璃覇偉栖でございます」 「うむ……。赤葉楓太郎を仕留める術を持っておるとな」 「はい」 「それは、どのようなものじゃ」 「それは、詳しくは申し上げられませぬ。が、そうですな、我が秘術にて」 「秘術、じゃと」 「いかにも。それがし修行を積み、ひととおりの秘術を使いこなすことが出来まする」 「それは、左道(さどう)の術、魔術の類か」 「そう思ってもかまいませぬ」  城主の間がざわめく。この男、魔術を心得ているという。にわかには信じられぬ話である。  重時は疑いの目を覇偉栖に向ける。よもやからかいに来たのではあるまいか、と。 「お信じになりませぬか」 「当たり前じゃ」  重時は憮然とする。赤葉楓太郎を仕留める術を持っているというから、どのような剛の者かと思えば。やせ細った山師風情の男ではないか。その容貌のみ見て信じられるわけもない。  しかし覇偉栖はにやりと笑って、 「では、すこしばかり我が術をお見せいたしましょう」  と言うと、おもむろに右手を差し出すと、「はっ」と小さな掛け声をかける。するとどうであろう、右手の上に炎が浮かんだではないか。  次に左手を差し出せば、同じように炎が浮かんだ。 「よっくご覧なされ」  念を込めたのか、覇偉栖の目が鋭くなると。右手の炎は竜に、左手の炎は鳳凰の姿をかたちどるではないか。これには、重時をはじめ家来たちは仰天し、覇偉栖と炎を交互にまじまじと見やった。 「お、おぬしまこと秘術を心得ておるのか」 「左様にございます」  覇偉栖はにっこりと愛想よく笑うと、素早く両腕を交差させて、炎を消した。 「……」  城主の間に沈黙が垂れ込めた。  誰しも、このような術を見るのは初めてである。 「いかがでございますかな。これで、お信じになられましたか?」 「ううむ」  重時はうめいた。驚いた。このような男がいようとは。しかし気がかりもあった。 「赤葉楓太郎を仕留めるのはよいとして。おぬし、何が目当てじゃ。やはり褒美がほしいのか」 「いいえ」  覇偉栖は首を横に振った。 「それがし、殿の憂いを取り除かんと願ういち領民にすぎませぬ」 「というと?」 「褒美は無用。先ほども申したように、いち領民としてでございます」 「ふうむ」  重時は、覇偉栖をまじまじと見やった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加