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佐久璃覇偉栖なる男は不敵な笑みを浮かべて、重時の前で跪く。
「佐久璃覇偉栖でございます」
「うむ……。赤葉楓太郎を仕留める術を持っておるとな」
「はい」
「それは、どのようなものじゃ」
「それは、詳しくは申し上げられませぬ。が、そうですな、我が秘術にて」
「秘術、じゃと」
「いかにも。それがし修行を積み、ひととおりの秘術を使いこなすことが出来まする」
「それは、左道(さどう)の術、魔術の類か」
「そう思ってもかまいませぬ」
城主の間がざわめく。この男、魔術を心得ているという。にわかには信じられぬ話である。
重時は疑いの目を覇偉栖に向ける。よもやからかいに来たのではあるまいか、と。
「お信じになりませぬか」
「当たり前じゃ」
重時は憮然とする。赤葉楓太郎を仕留める術を持っているというから、どのような剛の者かと思えば。やせ細った山師風情の男ではないか。その容貌のみ見て信じられるわけもない。
しかし覇偉栖はにやりと笑って、
「では、すこしばかり我が術をお見せいたしましょう」
と言うと、おもむろに右手を差し出すと、「はっ」と小さな掛け声をかける。するとどうであろう、右手の上に炎が浮かんだではないか。
次に左手を差し出せば、同じように炎が浮かんだ。
「よっくご覧なされ」
念を込めたのか、覇偉栖の目が鋭くなると。右手の炎は竜に、左手の炎は鳳凰の姿をかたちどるではないか。これには、重時をはじめ家来たちは仰天し、覇偉栖と炎を交互にまじまじと見やった。
「お、おぬしまこと秘術を心得ておるのか」
「左様にございます」
覇偉栖はにっこりと愛想よく笑うと、素早く両腕を交差させて、炎を消した。
「……」
城主の間に沈黙が垂れ込めた。
誰しも、このような術を見るのは初めてである。
「いかがでございますかな。これで、お信じになられましたか?」
「ううむ」
重時はうめいた。驚いた。このような男がいようとは。しかし気がかりもあった。
「赤葉楓太郎を仕留めるのはよいとして。おぬし、何が目当てじゃ。やはり褒美がほしいのか」
「いいえ」
覇偉栖は首を横に振った。
「それがし、殿の憂いを取り除かんと願ういち領民にすぎませぬ」
「というと?」
「褒美は無用。先ほども申したように、いち領民としてでございます」
「ふうむ」
重時は、覇偉栖をまじまじと見やった。
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