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何気無く言ったゆきみの発言に、ゆなは沈黙するように口を閉ざした。
「……?」
その、不自然な沈黙に、ゆん汰は奇妙に感じた。
ゆきみが問い出した時に、ゆなが一瞬、怯えるような表情を浮かべていたからである。
そんな中、ゆなは長年の沈黙を破るように口を開いた。
「京都、って言えばわかるかしら」
それは、ゆきみとゆん汰が向かう場所だ。しかし何故ゆなが、それを口にすることを躊躇ったのかわからなかった。
「京都か。奇遇だね。俺たちも京都に行く用事があるんだ」
「?そうなの?」
「……まぁな」
先ほどまであった違和感を感じつつ、ゆきみの言葉にゆん汰は同意する。
一方ゆきみは、さしてゆなの違和感を感じずに、ある提案を申し出た。
「どうせ目的地は一緒だ。何なら一緒に行こうぜ?旅は道連れって言うし」
「えっ?」
思いがけない話だったようで、ゆなは惚けた顔になった。
「な、ゆん汰も賛成だろ?こっから通るにも、一人ではさみし過ぎる」
「ま、まぁ……そうだが」
「はい決定!いいよな?」
同意を求めるような眼差しをゆなに向ける。
しかしゆなは内心、それに対する拒否反応を感じていた。
同行することに、拒否反応を感じていた。
それは、ゆん汰が暗殺者だから、ではなく。
ゆきみが変なノリだから、ではなく。
純粋に、自分と一緒に行くのに、拒否反応を感じたのである。
こんな人について来ていいのか?
こんなあたしを連れていいのか?
ゆなにはとても耐えられない。
『アレ』を見られたらとても耐えられない。
「……素敵な誘いだけど、悪いわね。お断りさせてもらうわ」
「えっ?なんで?」
「なんでもよ。あたしは、一人ぼっちがお似合いなんだから」
席から立って、足早に去ろうとするゆな。
その行動には、二人も予想しなかった。
「お、おい。それってどういう」
ゆきみが尋ねようとした時、食堂のドアが突然吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
吹き飛ばされた要因はすぐにわかった。扉があった入り口から、武器を携えた集団がぞろぞろを入ってくる。
いずれも柄が悪く、下劣な笑みを浮かべた男たちだ。
「よぉ、平和ボケした愚民ども」
その言葉とともに、遅れて食堂に入る男。
その男は、ふくよかな中年の顔立ち、恰幅のある腹に、 左目に丸ゴーグルをかけ、肩にバイクのマフラーのような機械のついた機巧腕を右腕に装着していた。
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