(零) 殺し屋、爆弾男

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関西地方最大の都市、大阪。 都市と呼ばれたのは、もはや五年以上前の話だ。 現在は、荒廃した鉄筋コンクリートのビル群が立ち並び、砂ぼこりが立ち込む世紀末状態であった。 この街に暮らすものは、決まりも法も守らないならず者のみ、 強者だけが生き残り、弱者が虐げられる。それが弱肉強食。 その四文字だけが、元大都市・大阪での法律であった。 「はっ……はっ……はっ……!」 崩れたコンクリートビルの路地裏で、一人走っている男。 服装はボロボロで、腰には拳銃を差している。 何故男は、こんなに血相を変えて逃げているのかと言うと、 「おい」 酷く冷めて、落ち着いた声に、男は思わず足を止める。 いや、声ではなく、目の前に対して足を止めたのだろう。 革のジャケットに、金属ベルトでしめたジーンズ。 燃えるような、焼けるような赤髪に、レーサーがつけるようなゴーグルをかけた男が立っていた。 彼の名前は、『加具土(かぐつち)』。 「逃げるこたぁ。ねぇだろ」 「ひっ……」 別に凄んでいるわけではない。 ドスを利かせているわけでもない。 いつもの調子で、静かに喋っているだけである。 それでも男は、蛇に睨まれたカエルのように怯えていた。 加具土は、相手がどんな調子だろうと、いつもの調子で話す。 「お前は悪いことをしたわけじゃないんだろ?だとしたら、逃げるこたぁねぇよな。 なんで逃げるんだ?」 「っ…………」 少し話を巻き戻すと、この男は、大阪を根城にする荒くれ集団の一員で、 今日も知らずに訪れる人間を襲って、金品を奪うことをしていた。 しかし、今日は襲う相手を間違えたのだ。 それがこの、加具土である。 「お前は、俺を一斉で襲う取り巻きじゃなかった。襲わずに、ただ傍観していた人間だ。 俺に襲いかかったところを傍観していたお前が、何故逃げる必要がある?」 落ち着いて喋っているのに、男はその喋り方に、また更に恐怖感を与えた。 気を抜いたら、喉を食い千切られそうな。そんな恐怖感が。 「答えろよ。なんでお前は」 「うぉあああああああああ!!!!」 限界、男は限界を迎えた。 見えない恐怖に、限界を迎えたのだ。 腰にある拳銃を引き抜いて、そのまま引き金を引いた。
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