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もしも地理に詳しくない者からすれば、海と勘違いするほどに広い湖、
しかし湖とは名ばかりに、泳ぐ淡水魚は少ない。
かつては琵琶湖と呼ばれていたらしいが、現在は『霊海(れいかい)』と呼ぶ。
その海のような湖のほとりには、森が生い茂る。
その森の、とある場所に、
時代錯誤な、いや、この日本の国ではない中世ヨーロッパの騎士のような鎧と膝丈ほどのスカートを身に纏い、腰には剣を差していて、腰まであるロングのマロンブラウンの髪をした女性が居た。
「は、はなしてよ!」
女性は叫んだ。
両手を縛られるように上げて、足もつま先立ちで、まるで吊られたように立っている。
その女性の向かい側には、
二人の男が居た。
一人は、フード付きジャンパーを纏い、包帯が所々巻かれた両手の十指を、不自然にそれぞれ曲げている。
表情はフードを目元まで被っていて解りづらいものの、内心複雑そうであることはなんとなくわかった。
もう一人は、白のスーツを着込み、左目に錨の模様が入った眼帯をかけ、ジャンパーの男の後ろで、何かを守るように立っている。
彼は苦笑いを浮かべつつ、女性を見ていた。
「……さて、言う通り捕まえたが、どうする?『ゆきみ』」
ジャンパーの男はふと口を開いて、後ろに居るスーツの男、ゆきみに尋ねた。
「どうするって言われてもなぁ……」
正直ゆきみも困っていた。
何故このようになったのかと言うと、
原因は、数分前に遡る。
ゆきみと、ジャンパーの男・『桜樹ゆん汰』は、目的地に向かうため、この『霊海』ほとりにある森を通っていた。
「『かんなぎ様』ねぇ」
ゆきみは気だるそうに、一つの紙切れをまじまじと眺める。
その内容は、『依頼書・『肆神教』カンナギノ抹殺求ム』である。
二人は今、抹殺の依頼で京都に向かっていた。
本来それを請け負ったのは暗殺者のゆん汰だが、武器商人のゆきみが、好奇心に押されてついてきたのだ。
「俺も『肆神教・かんなぎ様』のことは知っているぜ。商業コミュニティでも持ちきりだ。関東の『焼きおにぎり教』と双璧を成すほどの勢力を持っていると」
「その『かんなぎ様』の、奇跡の力というのが、なにやらまゆつばものだと感じるな。もしかしたら、お前の持っているスキルに関係するものじゃないか?」
スキル。『世界破滅事件』で生き残った人間の、更に『限られた』人間が持っている特殊能力。
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