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右手にかざした左手から、右手を覆う大きさの布が現れ、
そして覆っている布を巻き上げると、手のひらには一切れのパンがあった。
「ほらーパンだぞー。食べかけだけど美味しいぞ~?」
ゆきみは女性を起き上がらせようと触れた時、
「………
…………………
……………………………
……………………………………
食ぁべものぉ!」
カッ、と顔を見張ったと思えば、うつ伏せの状態からロケットジャンプを繰り出す。
狙いはゆきみの手にあるパンのようで、その口をあらん限りに開けて飛びかかってきた。
その動きに思わずゆきみはのけぞって、女性のロケットジャンプをかわす。
そのまま女性は木の幹に顔面からぶつかるが、すぐに四つん這いになり、いつでも飛びかかるような体制になる。
「やばいな。顔つきが只者じゃない」
暗殺者のゆん汰が、女性の剣幕に圧されている。
「極限状態になると、人ってかわるもんだからな。こいつは主に食欲に対する行動が凄まじい」
「ほとんど獣だな」
呆れるゆん汰をよそに、女性はまたロケットジャンプを繰り出す。
そこでゆきみは、命令するように叫んだ。
「殺すな。生け捕りにしろよ!」
「要努力する」
ピアノ奏者の如く、両手を巧みに素早く動かす。
その直後に、ゆん汰に近づく女性の身体は、巻き戻すように後退し、少し離れてからぴたりと止まる。
その際周りから、ぎゅるるるる、と糸が巻かれ、こすれるような雑音が響く。
女性は両腕を上に向かされ、その姿はまるで、吊るされたような有様になった。
「……捕縛、完了だ」
指を軽く動かし、ぎん、と何かを引っ張った。
よく見ると、女性の周りや木には、見過ごし見逃しそうな程細い糸が張り巡らせていた。さながら、蜘蛛の巣のように。
「……ふぁ?」
その時、女性が正気を取り戻す。
そして、自分が今置かれている状況を察した。
で、現在に至る。
「正直、俺はあのまま縛っておいた方がいいと思う、これ以上飛んでこまれては、俺の身が持たないし」
「そのパン置いて逃げればいいだろ」
ゆん汰の提案に、ゆきみは静かに首を横に振る。
「やったらやったで、俺の腕でも食いかかりそうだから怖い」
犬に怯える子供か。
武器職人が聞いて呆れる。
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