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結局私の物語は最初から破綻していました。
ハッピーエンドもトゥルーエンドもあり得なかった。
それでも私は勇者に恋をしてしまった。
雷鳴、稲光。夜空をを切り裂いて、闇が一瞬だけ白く染まる。
背景にはおどろおどろしい王城。塔の頂きに据えられたのは禍々しい悪魔を象ったガーゴイル。
その城の真正面入口、青く清浄な反射光を放つ魔法銀(ミスリル)の鎧を纏った、小柄な人影。
彼は月光にも似た儚い金の髪を揺らして、真っ直ぐに城を見つめていた。
黒い格子の門を遮るのは、二mは越そうかというオークの門番。破裂しそうなほどの筋肉は、彼の頭などたやすく握りつぶすことができるだろう。
けれど、彼は臆することなく、静かに捧げ持った両刃の剣を正眼に構える。
雷鳴にも似た苛烈な瞳は、ただ、真っ直ぐに、愚直なほど真っ直ぐに、オークを見つめていた。
そして門番の後ろ、魔王城の中に潜む幾百幾千もの魔物を、これから彼の道行を阻むであろう者達を。
暗黒騎士、ドラゴンゾンビ、インプ、がしゃどくろ、ケルベロス、ぬりかべ、デュラハン。
そして、そして。
――――・・・そして。
こうして彼を待つ、私自身を。――――・・・魔王を。
私もまた、彼を迎え撃つことしかできない。
それが私たちの間に眼前とある運命だから。
貴方を殺して私は生きる。
私を殺して貴方は生きる。
選択肢はひとつしかない。
最初から、終わりはひとつきりだった。
それでも私は、貴方に恋をしてしまった。
私を殺すだろう勇者を、愛してしまった。
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