女魔王の恋煩い

2/2
前へ
/8ページ
次へ
結局私の物語は最初から破綻していました。 ハッピーエンドもトゥルーエンドもあり得なかった。 それでも私は勇者に恋をしてしまった。 雷鳴、稲光。夜空をを切り裂いて、闇が一瞬だけ白く染まる。 背景にはおどろおどろしい王城。塔の頂きに据えられたのは禍々しい悪魔を象ったガーゴイル。 その城の真正面入口、青く清浄な反射光を放つ魔法銀(ミスリル)の鎧を纏った、小柄な人影。 彼は月光にも似た儚い金の髪を揺らして、真っ直ぐに城を見つめていた。 黒い格子の門を遮るのは、二mは越そうかというオークの門番。破裂しそうなほどの筋肉は、彼の頭などたやすく握りつぶすことができるだろう。 けれど、彼は臆することなく、静かに捧げ持った両刃の剣を正眼に構える。 雷鳴にも似た苛烈な瞳は、ただ、真っ直ぐに、愚直なほど真っ直ぐに、オークを見つめていた。 そして門番の後ろ、魔王城の中に潜む幾百幾千もの魔物を、これから彼の道行を阻むであろう者達を。 暗黒騎士、ドラゴンゾンビ、インプ、がしゃどくろ、ケルベロス、ぬりかべ、デュラハン。 そして、そして。 ――――・・・そして。 こうして彼を待つ、私自身を。――――・・・魔王を。 私もまた、彼を迎え撃つことしかできない。 それが私たちの間に眼前とある運命だから。 貴方を殺して私は生きる。 私を殺して貴方は生きる。 選択肢はひとつしかない。 最初から、終わりはひとつきりだった。 それでも私は、貴方に恋をしてしまった。 私を殺すだろう勇者を、愛してしまった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加