1.0 わたしは橙空

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『碧海 橙空(おうみ とあ)』は魔法少女である。 しかし魔法少女と聞くと、 コンパクト一つで色んな物に変身するとか、 悪者に対して『月に変わってほにゃらら』と言うとか、 願い事を叶える代償に怪物と戦うとか、 そういうものを連想するが、 実際の魔法少女は、そういう枠には治まらない。 この場で記述する魔法少女とは、魔法使いにおける半人前の魔女のこと。 即ち碧海 橙空は、半人前の魔法使いと言えよう。 しかし、彼女がこの先、本当の意味で魔女と呼ばれることはない。 なんせ彼女の母であり、『厭世の魔女』と恐れられた最後の魔女は、あの『世界破滅事件』の影響で死んでしまったのだ。 誰も彼女を、将来魔女と判定する者は、この世に居なくなった。 それでも橙空は、母が死んでも困りはしなかった。 勿論死んだことには悲しんだものの、しかし生活するに困ることは特に無い。 魔法薬の調合に関する文献、魔法に関する書物、病憑(やみつき)道具や曰憑(いわくつき)道具の本等、実家の本棚に遺されているからだ。 生活に対して不便なことがないからだ。 そして橙空は、母の言いつけで禁止されていた、人間との接触を図った。 それは、彼女が一番したかったことである。
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