1.0 わたしは橙空

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『天蓋吉原』の通りに、橙空は居た。 片手にキープアウトのテープを巻かれたをトランクを携え、まるで旅行者のような雰囲気を醸しながら歩いていた。 通りすがる男たちは、橙空の姿に見惚れ、 廓の女たちは、橙空の姿に目を引く、 その場にいる人間に、注目されていた。 「(……やっぱり、水色髪は珍しいのかな。遊郭でも鮮やかな髪は見かけるはずなのに)」 これでも、『天蓋吉原』に来るのは三度目で、遊郭に入りはしなかったが、様子を遠目から眺めていたから、そう言えた。 なぜ眺めるだけなのかと言うと、橙空は単純に遊びに来たわけではない。 人間というものを見ているのだ。 『天蓋吉原』に来る以前も、様々な所に出向いては、貴族、奴隷、市民、傭兵、殺し屋、職人………色々な人間を、この目で見てきた。 彼女は今、人間を観察している。 『人間とは何なのか?』という壮大なテーマを掲げて、隅々まで知るべく、観察している。 人から見れば、変なテーマを掲げていると思うだろうが、 橙空にとっては永遠のテーマに匹敵する。 動物を一括りにできても、人間は一括りにはできない。 個性があるからだ。 他者とは違う考えを持つからだ。 動物は独自の考えをあまり持たず、野生の本能の下に行動する。 人間は逆に本能で行動はせず、独自の考えで行動することが多い。 それが、一括りに出来ないという理由である。 「……?」 ふと、橙空は一つの建物に目を向けた。 長屋のような建物で、二階の座敷から覗く一つの人影を見つける。 その人影の正体は、少年だった。 金色の長髪に、中性的な顔立ち、赤みがかった瞳。一瞬外国の子供かと思ったが、顔立ちから見るに、日本人だとわかった。 「……可愛いなぁ」 思わず漏れた言葉、不審者とも思われそうだが、周りの人間はその言葉に耳を傾けようとは思わなかった。 周りにある華に対して浮かれているため、注意力なんてものは微塵もないだろう。 橙空はその少年が居る遊郭に足を運んだ。 その遊郭の名前は、『鳥籠屋敷(トリカゴヤシキ)』である。
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