11人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめんくださ~い……」
引き戸とのれんをかき分け、店に入る橙空。
店内は十畳ほどの広さで、左右には待合用のベンチ、奥には受付があるが、そこには誰もいない。
「(あら、もしかしてまだやってなかったかな……)」
あの少年の事でこの店に入ったが、橙空はなんとなく失敗したと思った。しょうがなさそうに、引き戸を引いて出ようとした。
「いらっしゃい」
同時に、受付の奥にあるのれんから和服の男が現れる。顔に切り傷の入った屈強の男だ。もしかするとやのつく人かと一瞬思ってしまう。
「客か?わりぃな。ちょいと休憩に入っててよ。まぁ営業中だから気にしないでくれや」
「は、はぁ……そうでしたか」
営業中であったことに呆気にとられ、橙空は委縮しつつ受付まで歩いた。
「で、誰をご指名だ?今のとこ六人が空いてるが」
受付の男は丁寧にリストを差し出した。
どうやらこの店で扱っている娼年のリストのようで、顔写真と名前、特徴等が書かれている。
男の言う通り、指名できるのは六人のようで、他の四人は、休憩中や指名中の札が貼られていた。
「(わぁ……ちょっと胸をくすぐられるなぁ……)」
リストに一通り目を通し、今のところ橙空が惹かれる娼年が数人いたが、そちらにうつつを抜かすわけにはいかない。
とにかく、外から見たあの金髪の娼年を指名した。
彼の名前はエネ。写真を見る限りとても可愛らしく、少女と見間違うほどで、
特徴としては、いじめることで可愛い声で鳴くM体質だということ。
受付の話では、この特徴が男性客に人気を博しているようで、この店リピーターが多く、人気の娼年のようだ。
「(多分まともな人じゃないんだろうな……そりゃそうだよ。こういうのに欲情するのは、精々変態か下衆な奴しか思い当たらないんだから)」
そう内心毒づきながら、別の従業員の男に部屋へと案内される橙空。
トランクは持ってくのに邪魔なので、受付の男に了承してもらい、置いてもらうことにした。
木製の階段を上がり、廊下を歩くと、『鴉』という額縁がつけられた襖の前で止まった。
「こちらがエネの部屋です。ではごゆっくりお楽しみ下さい」
軽くお辞儀をし、そそくさと行ってしまった。
案内にしては少し物足りなさを感じるものの、これ以上干渉されることはないと思い、ほっとした。
最初のコメントを投稿しよう!