1.0 わたしは橙空

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「ごめんくださ~い……」 引き戸とのれんをかき分け、店に入る橙空。 店内は十畳ほどの広さで、左右には待合用のベンチ、奥には受付があるが、そこには誰もいない。 「(あら、もしかしてまだやってなかったかな……)」 あの少年の事でこの店に入ったが、橙空はなんとなく失敗したと思った。しょうがなさそうに、引き戸を引いて出ようとした。 「いらっしゃい」 同時に、受付の奥にあるのれんから和服の男が現れる。顔に切り傷の入った屈強の男だ。もしかするとやのつく人かと一瞬思ってしまう。 「客か?わりぃな。ちょいと休憩に入っててよ。まぁ営業中だから気にしないでくれや」 「は、はぁ……そうでしたか」 営業中であったことに呆気にとられ、橙空は委縮しつつ受付まで歩いた。 「で、誰をご指名だ?今のとこ六人が空いてるが」 受付の男は丁寧にリストを差し出した。 どうやらこの店で扱っている娼年のリストのようで、顔写真と名前、特徴等が書かれている。 男の言う通り、指名できるのは六人のようで、他の四人は、休憩中や指名中の札が貼られていた。 「(わぁ……ちょっと胸をくすぐられるなぁ……)」 リストに一通り目を通し、今のところ橙空が惹かれる娼年が数人いたが、そちらにうつつを抜かすわけにはいかない。 とにかく、外から見たあの金髪の娼年を指名した。 彼の名前はエネ。写真を見る限りとても可愛らしく、少女と見間違うほどで、 特徴としては、いじめることで可愛い声で鳴くM体質だということ。 受付の話では、この特徴が男性客に人気を博しているようで、この店リピーターが多く、人気の娼年のようだ。 「(多分まともな人じゃないんだろうな……そりゃそうだよ。こういうのに欲情するのは、精々変態か下衆な奴しか思い当たらないんだから)」 そう内心毒づきながら、別の従業員の男に部屋へと案内される橙空。 トランクは持ってくのに邪魔なので、受付の男に了承してもらい、置いてもらうことにした。 木製の階段を上がり、廊下を歩くと、『鴉』という額縁がつけられた襖の前で止まった。 「こちらがエネの部屋です。ではごゆっくりお楽しみ下さい」 軽くお辞儀をし、そそくさと行ってしまった。 案内にしては少し物足りなさを感じるものの、これ以上干渉されることはないと思い、ほっとした。
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