白昼のカオス

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…初子の体は震えていた。抱きしめてやると、鼓動がまるで早鐘を打っているようだった。 「怖かったよぅ…怖かったよぅ…」 全身を縛られたまま良介の胸に顔をうずめて泣きじゃくる初子… 起き抜けにいきなり浴びせられた強烈な冷や水のようなハプニングに、良介自身の心臓もまだ縮み上がったままだったが、まるで幼子のような妻の様子には苦笑を漏らすしかなかった。 …やがて、ひとしきり泣き続けるとやっと落ち着いたのだろう、泣き腫らした目で良介の顔を見上げると初子は照れ臭そうな笑みを見せた。 …カーテンの外が白み掛けていた。 …もし今、市街地の真ん中で初子があの状態になってしまったら… 良介の懸念はつまるところそれだった。 …予備実験は全部で5回やった。初子がパニックを起こしたのは結局あの二晩目だけだったのだが… …初子を恐慌に陥れた悪夢がどんなものだったか…あの後、何度か訊ねてみたのだが初子は「よく覚えていない」の一点張りだった。 …「なんだか暗いところに閉じ込められている夢」…って…それじゃ現実と一緒じゃないか。 …原因はたぶんあれだ…良介は運転しながら猛省していた。…面白半分に生殺し放置なんかするんじゃなかった… …そして今日はと言えば、大事な実験本番の朝だというのに縛られて抵抗できない妻を無理やりに組み敷いて… その後の妻の挙動を考え合わせると、不安な条件が揃い過ぎている… とにかく今は安全に初子の世話を出来る場所をいち早く見つけることだ。 良介は初夏の健全な陽気に溢れる公園の賑わいを恨めしく眺めながら車を走らせる…
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