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青梅街道は混んでいた。
中野坂上までは比較的順調に流れていた車が、中野警察署の前あたりで完全に止まった。
…高速道路を使うべきだったか…
高速道路を使わなかったのには理由がある。何かあった時に車を緊急停止しなければならないと思ったのである。それに関しては初子の意見も同じだった。
「一般道だと秋川まで三時間もかかるのね…」
「道が空いていればな。道が混んでたらそれこそ四時間以上掛かるかも知れない…」
…初子の顔は悲壮な決意にこわばっていた。当然だと良介は思った。一歩家を出ればたとえ車の中と言えども何が起こるかわからない。事故や故障に限らず何かの拍子で誰の目に晒されるか知れたものではない。
…そんな状況の中で市街地を抜けるまでの四時間、いや車に積まれるまでのあれやこれやまで加えるとおそらく五時間近く初子は緊縛されたまま過ごさなければならないのだ…
「あれこれ考えていても埒が明かないわ。試してみましょう…」
初子は縄の束を布団の上に広げると両手首を後ろに重ねた背を夫に向けた。
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