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「咎人に手加減は無用じゃぞ。」
髪を鷲掴みにされ身動き出来ない私の顔の前にあの白い皿のようなものが近づいてくる…それは陶器で作られているらしく皿のくぼみの真ん中に豆の鞘のような形のものが飛び出している…
…イヤだ。ヤメて…
歯を食いしばって抗おうとしても既に布を咬まされているから完全には閉じられない…
あれを咬まされたらもう喋れない!
いわれない咎、声を出して潔白を訴えたくても既に詰めものをされた口からは呻き声しか出せない…
禍々しい形をしたそれが眼前に迫る。
「ううううううっ」
恐怖と焦り…くぐもった呻きにしかならない悲鳴…私の目からは大量の涙が噴き出していた。
「しっかり歯の間に咬ませぇ!」
…前歯に硬いものを感じたと思ったらもうそのおぞましい物を咬まされていた。乾いた唇に触れた陶器の肌がゾッとするほど冷たい…と感じる間もなく口全体がその蓋で覆われきつく押し当てられ、気づくとその上から布を巻かれて締め上げられていた。
「うっうっ、うっ…」
…口の自由はもう全く無かった。
「…そろそろ薬が効く頃じゃろ。」
…薬って何!?…まさかこの口に詰められてる変な味の塊が?…薬?
「おう、随分とおとなしゅうなったようじゃ。」
「生け捕って連れてこいとの仰せじゃ。面倒じゃが皆の衆、あと一踏ん張り頼むで。」
…薬って…ああっ舌が痺れてきた…
…頭の中で早鐘がなる…
「だば、縛り上げちまうべぇ。」
「おう。」
まだ縛られるの?…と思ううちに鼻まで布を巻かれ黒い布で目隠しまで…
視界を奪われようとする瞬間、縛られたお美津ちゃんがぴくりと動いたのが見えた…
良かった…お美津ちゃん…生きている…
早鐘は鳴り続けている…薬のせいかも知れない…
お美津ちゃんはどうなるんだろう…
…なぜか恐怖は消えていた…
…どうにでもなれという捨て鉢な気分…
…ああそれにしても鐘の音が煩いなぁ…
…足の先まで雁字絡めに縛り上げられた体をくの字に折り曲げられる…そうか、どこかに運ばれるんだ。私…
そこで意識が途絶えた…
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