白昼のカオス

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冷めかけた風呂にせいぜいゆっくり浸かってそろそろ頃合いかと部屋に戻ると真っ暗い部屋の布団の中、初子の泣き方は啜り泣きからしゃくり泣きに変わっていた。 両手も遣えず仰向けのまま寝返りも打てず…膝をきつく縛り合わされているので太腿を強く擦り合わせることも侭ならず…これでは欲情の火を消すすべはないだろう。さて初子はどうするのか? 経過が気になりはしたがここは我慢だ… 良介はぐっとこらえて見ぬ振り聞かぬ振りを決め込み自分の寝床に潜り込んで布団をかぶった… …異変が起こったのは夜明けの4時半だった。 …たとえ緊縛放置と言えどもそこは愛しい妻が相手である。本気で放って置けるものではない。 良介は何か異変が生じたらいち早く対応できるように、何時でも起きられるよう神経を張り詰めて添い寝をしていたのである。 ほぼ一時間半から二時間おきに目を覚まして初子の寝息を確認してはまた眠る…を繰り返し、良介は二晩続き寝不足の夜を過ごしたのだった。 …はじめの一時間ほどは布団の中からしゃくりあげる声が漏れ出していたものの、暫くすると泣き疲れたのだろう。布団の中からは安らかな寝息が聞こえはじめた。 ちょっと可哀想なことをしたかなと心が疼いた良介だった。 …でもまあこの調子なら二晩目も無事に終われそうだと安堵していたのだが… 実験終了の目覚まし時計が鳴りだしたその時に事態は急変したのだ。 「ひィィィィぃぃっ」 猿轡がはずれてしまったのかと思うほどの悲鳴とともに激しい身悶えが始まった… 「どうした?!初子っ!」 慌てて初子に飛びついて、引き毟るように紐を解いて布団を広げて目隠しをはずす… 初子は目をつぶったまま大粒の涙を流して泣きじゃくっていた。 「どうした?初子っ、大丈夫か?」 結び目を解くのがもどかしく、猿轡を顎の下に引っ張り下ろして口中の詰め布をはずす。 「イヤん、イヤん、イヤん…」 初子は目をつぶったまま、幼児が駄々をこねるように首を振り続ける… 「おい!初子…初子っ!」 良介が抱き起こし、頬をピシャピシャ叩いてやると初子はやっと目を開いて周囲を見渡し、状況を理解したのだろう 「うえーん。怖かったよぉ…」 …と、いきなり本気でべそをかきはじめたのだった。 …そう。初子は悪夢にうなされていたのである。
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