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早口に自己紹介し、慌てて頭を下げる。
しかし、アルディスは何の反応も寄越さない。
「……姫様……?」
アンは不安になって呼び掛けてみた。
しかし、アルディスは何事もなかったようにそのまま視線を聖書に戻している。
“姫様は本当に愛想が無いからね。”ここに来る前にそう言っていた中年の先輩使用人の顔を思い出す。
今はこれ以上姫様の反応を待つのはよそう。そう判断したアンは広い部屋の中を見回す。
隅の方のテーブルの上に、食事をした皿やスプーンが置いてあった。
「姫様、お食事お下げしますね」
一応アルディスにそうことわってからそちらに向かう。
やはり、反応は無い。まあ、反応があることを期待していたわけでは無いが。
アルディス様は今読書中である。だから、私に返事をしなかったのかもしれない。
違和感を感じつつ、アンはそう自分を納得させる。
姫様が読んでいらっしゃるのは万国共通の思想、フィデルディス教の聖帝神話だろう。
アンはそんなに敬虔な信仰者ではなかったが、内容くらいは知っている。
我らを人間に育てた親の“聖帝”という存在や、聖帝の子孫である現在の五大国の領主について書かれた、神話とおとぎ話の間みたいな話だった。
そんなことを考えながら、アンは皿に手をかけた。
イルサレム皇国屈指のシェフが趣向を凝らして作った料理は、まだ半分以上も残されていた。
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