ギュッ

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トイレへ向かう通路に、 死角になっている隙間があるのは、以前から知っている。 その隙間に、身を隠すようにして、彬は立っていた。 試合が終了してから彬とちゃんと話すのは、はじめてで、 ムっとしたままの彬に、とりあえず笑顔で話しかけた。 「2連勝おめでとう!すごかったよ。めっちゃかっこよかった!」 拍手までして、 心の底から気持ちを込めて言ったのに、 彬の表情は柔らかくならない……。 怒ってる……。 シュンとして、少し身を縮めた。 「竜ちゃんはともかくさぁ……。 山田は本気だろ? なんでOKすんのよ」 口をすぼめてブスっとしたまま言う。 「冗談言い合ってただけだよ。 誰も、本気になんてしてないし。 あの状況で、断ったら雰囲気悪くなるし。 ノリでしょ。 考えすぎだよ」 別に深い意味を持って話をしていたわけじゃないし……。 ただあの場で、聞きたくない智樹の話から、話を反らしたかったから。 「お前、何するかわかんねーしなぁ」 ブスっとしたまま、ポンと私の頭に触れる。 大きな手…… 『俺のもの』 ってラベルを貼られるのも彬ならすごくうれしい。 「何もしないよ。私、身持ちは硬いんだから」 調子よく言っているわけじゃない。 今の私には、彬以外、考えられないのに……。 それでも、彬の機嫌はなおってくれない。
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