ギュッ

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とりあえず、私の話題から、話をそらせようとしてみる。 「下北くんこそ。今、彼女いないの?」 「彼女欲しいねぇ。 なんでこんないい男、ほっとくかねぇ」 下北くんは豪快にワハハと笑った。 ちょっと話がそれたかなとホッとしていると、 反対横から、横で話を聞いていたらしい山田くんが、口をはさむ。 「河合さん。フリーになったんすか? 俺、今度、河合さんと二人で酒飲みたいんですけど」 フリーになったなんて、一言も言ってないけど……。 普段、実直な野球バカの山田くんが、 冗談めかしてこんなこと言うこと自体が意外だ。 お酒のせいかうっすら赤みのさした顔が、 結構かわいい……。 「いいよぉ。 今度二人でじっくり飲もうか」 ここは冗談でも話に乗って山田くんに、笑顔で返した。 「俺も俺も!」 横から下北くん。 下北くんまで便乗してくるとは……。 なんだろう。モテキ到来!? 「じゃ、三人で行こっか」 私が提案してみたんだけど……。 「二人がいいんすけど……」 山田くんが、笑いながらいう。 「二人で飲むのを2回ってことでよろしく」 下北くんも、笑っていった。 和気あいあいとした雰囲気で、 とりあえず、この場も収まったかな。 冗談の言い合いのつもりだったんだけど……。 彬が突然、スクっとその場を立った。 見上げると、明らかに不機嫌な表情で、 ジロっと私を睨む。 『ちょっとこっちに来い』 と目配せをしてる気がして……。 彬が出て行って、少し間をおいてから、 私もトイレに行くふりをして、静かに席を立った。
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