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あれから、もう何年経っただろう。
麻衣がこの世から消え、オレの笑顔が消え失せてから…
オレの眼前には、灰色の風景が憧憬のように美しく見えていた。
麻衣が大切にしていた、この希望ヶ丘が取り壊される……
『春になったらピクニックに来て、夏になったら海を眺めて、秋になったらお芋を焼いたり、冬になったら蕗の薹を取りにきたの。だから…』
取り壊される……
『だから、ここには、お母さんを感じるの』
…あれ? なんでいきなり海に浸かってんだ?
「─け、オラ啓介、いつまで寝てんだよ? いい加減起きねーとハンマーでドタマぶち割るぞ」
「ん…んん……」
ゆっさゆっさと揺られているのに気が付き、オレはうっすらと目を開けた。
思わず悲鳴をあげたくなる。眼前には、35歳のオバチャンが本気でハンマーを振り下ろしていた。
「うぉッ!?」
「おう、やっと起きたかバカ息子」
見開いたオレの目の前に、ピタリと止められた鉄製ハンマー。これもプロの競艇選手が成せる技なのだろうか。
「ん? お前、またやったな?」
寝ぼけた頭をフル回転させているが、なにをしたのかが今ひとつ分からない。
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