誤審

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なんとも言い難い、微妙な球筋であった。 ベースの上を通ったかと問われれば、通ったような気はするし、 外れていたかと問われれば、そうだったような感じもする。 黒土の盛山の上に、陽炎の如く佇む17歳の投手の、無駄なく純真に気合いの篭った瞳に気圧されたような気もするし、 同じく17歳の若年の左バッターの、ちょっとした左手の動きに、正常な判断ごといっぺんに釣られたのかもしれない。 あるいは、その丸太のような腕をピンと張り、 白球のしっかりとおさまった赤いミットを微動だにもさせずストライクゾーンに留め、 その球が枠の中を通過したことを確信したかの如く、ただ下を向き、滴る汗を五角形のベースに落とし、 入った!と裏声を響かせ必死にアピールするその捕手の気迫に、心動かされたのかもしれない。 ともかくも私は、 審判である私は、 その場限りの野球の神様である私は、 グリーンのマンモスの土手っ腹とでも言うべき甲子園の、 じりじりと照り付ける紫外線と、それをさえぎる銀傘のもと、 人波がうねるスタンドから、また電波を通して何万何千もの瞳が見つめる中、 同じく何千の熱戦の上に出来上がった、決勝という舞台の、 九回裏、 センターバックスクリーンに赤いランプと黄色いランプが二つづつついている、それこそ究極の緊張が交差するバッターボックスのやや後方で その18メートルの空間を切り裂いた白球に対して 生まれて初めて自分という人間を心底疑いながら バッターの三振と、試合終了をいっぺんに示す右の手の拳を 大きく天に向けて振り上げていた。 ストライク、バッターアウト……… 思わず、舌を噛んで俯いた。 …………これほどに自信のないジャッジは、経験がなかった。
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