誤審

3/13
前へ
/13ページ
次へ
何万球という球を見送り、 そのたびにストライクかボールかと叫び、 努力も希望もすべてを載せたそれを、 ルールによる二つの要素に容赦なく分別をしてきて、 心を鬼にし、情を捨て作り上げてきた長方形のストライクゾーンという名の箱が、 この日の、この球の、この場面においてだけ、 歪んで見えた。曲がって見えた。 入った?外ずれた?外れた? どっちだ。 どっちにも判断できる。が、どっちにも判断できない。 審判生活20年の混乱が、その身にいっぺんに降りかかったかのよう。 どっちが、どっちだか。 判断しかねた、 正しい選択を自分の中に見出だせぬまま、手を挙げてしまったのだ。 わあっ、と上がる歓声は、 まるでひしゃげたストライクゾーンが私を嘲笑うかのよう。 勝敗は決まった。お前の中途半端な判定は、一つのフェアを潰した、と。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加