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ボール、と言えばよかったのかもしれない。
カウントは2ナッシングだった。
ランナーもいなかったし、その時点で二点差をつけていた守備側のチームの勝利は殆ど決定的だった。
どう考えても負ける要素がなかったのである。
ならば、こんな微妙な判定で、
いや、誰か別の人がジャッジすればボールになってしまうかもしれないような難しい判定で、
バッターボックスで今はただ呆然と私の右手の突き上がるのを見つめるこのバッターを
見逃し三振で最後のバッターにしてしまう事はなかったのではないだろうか。
もっとそれに相応しいような、自分にも納得の付くような、
胸のすくような思いでジャッジのできる投球がその先にあったのではないか。
そもそも、今の判定、本当に「微妙」なものだったのだろうか。
センター側から、カメラを通してホームを見つめる、全国何千万の野球ファンの瞳には、
外れたようにしか見えなかったのではないか。
………………。
一球待てばよかった。
こんな………見るものに、プレーするものに疑問符を残してしまうものでなく、
誰もが納得するような、完全なストライクを。
なら、こんな罪悪感に苛まれることもなかったろう。
こんな審判自身に自信のないジャッジで夏を終わらされたこのバッターは…………
数年後、振り返ってビデオでも見たとき、わたしを怨むだろうか……………
と。
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