誤審

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ふと、自分の足元を見遣った。 「神の手」の被害者が そこにうちひしがれたまま、頭を抱えてうずくまっていた。 次にこの青年が顔を上げるとき……… 一体彼はどんな視線を私に送って来るのだろう。 軽蔑か、悔恨か、下手すれば怒鳴り散らして来るかもしれない。 その目を真っ赤にして、黒土で固まった 涙腺を私に突きつけて、 その残った不満を、火の玉の白球の如く、私にぶつけて来るかもしれない。 ストライクに見えたが、ボールにも見えた。 そんな中途半端なことを言う私を、 おもいっきりに罵倒するかもれない。 私自身が、自分にそうしたいように。 …………しかし、「神」である私には、謝ることは許されない。 誤審、ということを意識してはならない。 人間の限界のフェアが、崩壊してしまうから。 野球のルールが、それを示しているから。
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