誤審

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ーーー期せずして、バッターボックスは私とバッターの、 二人だけの空間になった。 もちろんオーケストラの演奏はまだまだ続いていたし、 球場の熱気は最高潮だったと言うのに違いはない。 気温以上の興奮が、その場の体感温度を押し上げていたことに違いはない。 が、それと対象的に、バッターボックスの私達二人は、 まるでふぶいた雪山のように冷え切った空間にいた。 乾ききった土にまみれ、それでも起き上がろうとするその青年の姿は、 私の心身を凍りつかせた。 何を言って来るのか、恐ろしくなった。 内面が冷たい。 五臓六腑から凍てついていく。 私だけではない。 彼も同じに違いない。 私と同じように、冷たい空間にいるに違いない…………
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