灰色白髪の目覚め

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古城エルトハイム。 南エリアに属する地域に、今は廃墟となっている古城がある。 ここは連合本部カンザスから西に位置する場所で、古城は遥か昔に栄えた国の遺物だ。 数百年前にラナ王国に攻められ、現在では瓦礫以外に痕跡を残す物は何も無い。 よってエルトハイム城は外装の一部のみ現存している形となり、今では道標的な役割になっている。 然し普段は誰も居ない筈の廃墟に、凡そ三ヶ月近く前から、ここに住み着いていた者達がいた。 彼等は水も食料も、寝具等の生活品も無いこの場所で、ずっと暮らしていたのである。 その為、生きるだけでも相当な苦労を強いられ、今までどれ程の困難があったかは、想像に難くない。 では何故、この者達はこの様な辺鄙な古城に、何ヵ月も住まなければならなかったのか? その理由は至ってシンプルで、単にそうせざるを得なかったからである。 ここに住み着いていた内の一人が、明日をも知れぬ大怪我をしていたので、身動きが取れなかったのだ。 然し酷いのは、殆どの者達がこの重病人を見捨てて移動してしまった事。 その為、現在ではこの者を看病しながら支えているのは、たったの一人の女性しかいなかった。 置かれた食料も底を尽いた為、雨水を飲んで渇きを凌ぎ、時には虫を食してまで生き延びる。 そこまでして、彼女は重病人を助けようとした。 勿論、赤の他人であれば、絶対にここまでは出来ないだろう。 だが彼女にとって、この重病人は他人ではなかった。 然し、決して親切心から看病したのではない。 本当は殺したいほどに憎い相手、それなのに彼女はこの者を助けたのだ。
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