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「……………なぁセーラ、何でだ?」
「……………」
男が名前を呼ぶと、彼女は無視するかの様に、いそいそと支度を続ける。
「……何でだよ、何で俺様を助けた?」
何時もなら諦めるが、今日こそは理由が知りたくて、男は食い下がった。
「……………」
「お前は俺を殺したい程に憎んでいた筈だろ?」
彼がその台詞を言うと、ビクッと彼女は身体を震わせる。
そして冷酷な目付きをして、ツカツカと彼の前に近寄った。
……………パンッ!
「…………っ……」
乾いた音が響き、彼女の恨み募る平手打ちが、男の頬を捉える。
勿論、彼は避ける事が出来たが、敢えてそうはしなかった。
「………何でですって?」
憎しみに支配されながらも、彼女はポロポロと涙を流して彼を睨む。
「…………」
「ザケン、貴方が私にしたことを忘れたの?」
「…………いや、そんな訳がねぇ」
………パンッ!
再び頬を叩く音が聴こえ、セーラはこの三ヶ月もの間に溜めた、必死で辛い思いを口にした。
「あ、貴方が、貴方が私達を見捨てたんでしょ!それがどれだけ私達を苦しめたか!もし私が同じ事をしたら、貴方と同罪になるでしょうが!」
「……………」
「ふ、ふざけ………ふざけないでよ!何が何でよ!理由なんか知らないわよ!アナタになんて、本当は絶対に逢いたくはなかったわ!」
セーラは止めどない涙を流し、ザケンの胸へと飛び込んだ。
「…………済まなかった」
「あ、謝るくらいなら、最初から姿を消さなければ良かったのよ!」
「……………」
セーラはまるで少女の様に、暫くの間、ずっと泣いていた。
……………
そう。
この謝る男こそ、あの惨劇を辛くも生き延びたザケン。
そして彼を介護した女性こそ、ティナの実の母親であるセーラであった。
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