灰色白髪の目覚め

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…………… 三ヶ月のあの日、ランカスターで胸を刺され瀕死の重傷を負ったザケン。 その時に、どうやら灰色髪から、本来の白髪に戻ったようだ。 シェラに心臓を傷付けられた彼は、意識を失う前に最後の力を振り絞り、辛うじて命を保つ事に成功した。 だが如何なる傷も修復出来るとされる治癒師でも、必ず弱点は存在する。 それが頭部と心臓であり、特に魔力の源としての基盤になる心臓に損傷を負うと、力その物が出せなくなってしまうのだ。 命こそ助かったが、お陰で全く身動き出来ない状態になり、ザケンはそのまま次元の歪みに呑まれて古城へと飛ばされる。 そして気がつけば、彼はこのエルトハイム城跡で、凡そ四日間も飲まず食わずで過ごしていた。 ザケンは、自分がどうしてここに居るのかは何となく理解出来たが、身体は衰弱する一方で、やがて全てを諦めるに至る。 ピクリとも身体が動かず、周りに何も無いこの廃墟で、恐らく自分は死ぬのだと悟った。 そう覚悟を決めた時、彼は何故か昔を思い出した。 それはずっと記憶を封印していた、忌まわしき過去の自分の業。 これが走馬灯という物なのか。 そんな事を考えながら。ゆっくりと目を閉じていく。 …………… まさにその時だ。 イース村がドール達に襲われ、生き残った村人達が、西へと疎開しながらここを通ったのは。 そしてその中には、あのセーラの姿もあったのである。
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