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エルトハイム城跡を通過しようとしたセーラ達は、白髪の男が倒れているのを見付けた。
そして彼女は、それが直ぐにザケンであるとわかった。
その姿は、何年経っても変わらない。
最初に彼を見たとき、セーラは雷に撃たれた様に動けなかった。
まさか世の中が絶望に満たされていく時に、自分に絶望を与えた男に出逢うとは夢にも思わない。
然も殺したい程に憎んだ男は、自分が手を下さなくても死にかけている。
この時、セーラは思った。
これは運命、自分への最後のチャンスを神が授けてくれたのだと。
愛娘であるティナが冒険に出てしまい、一時は悲しみに暮れた。
その後、娘が貴族入りを果たした事を知り、やっと希望が叶ったと思ったら、今度は国が滅んだ。
何もかもが上手くいかない、これも全て自分を捨てたあの男のせいだと。
それが目の前にいる、しかも何の罪も償わず、安らかに眠ろうとしている。
そんな馬鹿な話があるか。
20年にも及ぶ長い間、片時も忘れた事等ない。
自分の悔しさ、不運さを、そして家族を捨てた罪の深さを。
この男に教えなければ、自分の人生は全て失敗になってしまう。
許さない、許されない。
過去に死ぬほど恨み、死ぬほど愛した男を、このまま死なせてなるものか。
セーラの狂わしき想いは、豪火と共に激しく燃え上がり、彼女はザケンを助ける事を決める。
村人達は見捨てろと彼女に説得したが、それを頑なに断った。
結局、村人に好かれていたセーラは、大量の食料と水を与えられ、一人でこの場に残る事になる。
然しそれも尽き、それでも彼女はボロボロになろうと、強い意志でザケンを介護し続けた。
……………
これが、先程までの経緯である。
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