灰色白髪の目覚め

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だがここでは英雄の俺様も、外の世界は全く知らない。 隔離された狭い地区の一つが、俺様の居場所。 もしここだけで生きたのなら、今の俺はなかった代わりに、彼女を不幸にする事もなかっただろう。 だが、こんな小さな場所で、当時の俺様が満足出来る筈がなかった。 ………… 「ボス、外にはスゲェお宝や綺麗な女がいるらしいですぜ!」 ある時、仲間の誰かがそう言った。 お宝や女? 女なんて、このスラム街じゃほとんど居ない。 居ても薬物中毒か、頭の可笑しい奴か、汚い不細工な小娘ばかり。 だからまだ、俺様は女に興味がなかった。 そして当然、女を知らなかった。 ………… 「女は良いですぜ、ボス!」 「ほぅ、そんなに良いのかよ?」 汚い女とヤッたらしい仲間が、俺様にその感覚を教えた。 まるで夢心地になれる様な、とても気分が良いものらしい。 然し、ここには俺様が興味を持って襲える様な女は居ない。 だから俺様は、外の世界に出てみたくなった。 そして一度そう思ってしまうと、もう何が何でも外に出たくなる。 「ククッ、お宝や女がどういう物なのか、この目、この手で確かめてやろうぜ」 意気がった俺様は、荒んだ目付きで笑みを溢し、何ヵ月もかかって遂に壁に穴を開けた。
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