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「ジンさん、フォークとスプーン どこだっけ」
「食器棚の一番右の引き出し」
「……あった。」
ジンさんの言われた通りの場所を探ると、目当てのものはすぐ見付かった。
あの日、僕はジンさんに引き取られた。
引き取られたというか、ジンさんの家に居座らせてもらっているというか。
「まだ記憶がちゃんとしないね」
「……うん、」
自分では気付かないけれど、どうやら僕は人より記憶力が疎いらしく なかなか新しいものを覚えられない。
実際、ジンさんの家に来て既に半月はたったのだが 未だに食器の場所等が分からない。
今まで、それが普通だと思っていた。けれど違うようだ。
「傷、残ってしまうね」
食器を並べていると、後ろからジンさんが僕の腕にそっと触れた。
正直、驚く。
「いいよ、残っても……」
「何故?」
小さくそう呟く僕の腕をジンさんは優しく微笑みながら優しく触れる。
ゾクリ、全身が痺れる感覚に陥る。
「……はやくご飯にしてよ、お腹減った」
「わがままになったね」
それも悪くない、と優しく囁きキッチンへ消えた。
ジンさんに気付かれないように ふぅ、と静かに息を吐き出す。
なんだか、どうしても 多分きっと 誰かに優しくされることに慣れず、どうしても避けてしまう。
どう、対応していいのか 分からない。
(流石、死にぞこない)
曖昧に笑う。
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