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二階堂の口から、わずかにヒューヒューと音がする。もう助かる可能性は限りなく低くなってきた。本来なら、救急車を呼んで病院に搬送してもらうのだが、もはやそれは叶わない。この街はアンデッドが支配する街になっているのだ。日本人はただ喰われる獲物に過ぎない。
「ごふっ…姉さん…。」
「芳樹!死なないで!お願いだから!」
萌華が涙を湛えながら、弟の身体を抱く。身体は既に冷たくなり始めており、もはや死は目前に迫っていた。
「ね…さん…ごめ……」
「駄目よ!あなたはまだ死んじゃ駄目なの!」
萌華は弟の手を握り、奇跡を願った。しかし、神は無情にも二人の姉弟を引き離した。二階堂の手が、すっと地面に落ちる。顔にはもう血の気がなく、真っ白になっていた。
「よし…き…?嫌よ…こんなの嫌…嫌だー!」
萌華が声を上げて泣いた。身内がまた一人死に、もう二階堂萌華に家族は居ない。皆死んでしまった。自分だけ残して。もう、自分も逝ってしまおうか。あっちの世界の方がみんな居て楽しいだろう。ちょうど弟も今そっちに行ったのだし、また家族揃って仲良く暮らすのだ。
「何してるの!」
詩織の手が、萌華の頬を叩いた。萌華は二階堂の使っていた青竜刀を首筋に当てていたのだ。
「お願い…もう死なせて…。あたしだけ生きていても仕方ないのよ…。」
「駄目!弟さんの分まで強く生きるの!あなたが自殺するなんて、家族は誰も、弟さんだって望んじゃいない!」
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