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「そうね、明日の放課後から四人ずつで始めましょう。朝倉さんと、有村君、伊藤君、大川君はその時までに、プリントの記入を済ませておいてね」
そして、直美は持参していたプリントの束を小分けにして、「一枚取ったら列の後ろに順に渡してね」と言いながら、前の席に座る生徒たちに配った。
その日のお昼休みに、晶子と朋美はいつものように屋上のフェンス際のブロックに並んで座って、お弁当を食べていた。そこへ澤本一樹がやってきた。晶子は剣道の部活では顔を合わせていたが、一樹とここで会うのは久しぶりだった。
「やあ、晶子さん、朋美さん、沖縄楽しかったね」
「一樹さんは、班別自由行動でどこに行ったの?」
「ああ、晶子さん、僕らは宮古島に行った。こわかったけど、パラセーリングにも挑戦したよ。海はきれいだし、景色もこことは違って別世界だったね」
「そう、庶民的でよかったわね」
朋美がお弁当を仕舞いながらボソッと言った。
「ハハハ、朋美さんも同じ修学旅行だから、やはり庶民的だったでしょう」
「ところで、一樹さん何か用があるんでしょ」
晶子も最後の卵焼きを口に入れると、お弁当を仕舞い始めた。
「そうだった、晶子さん。君のクラスでも今朝、進路指導の話があったでしょう」
「あったわ。わたしは明日の放課後までに自分の進路を考えておかなくちゃならないの」
「それだよ。僕は、朋美さんが言うように庶民代表だからね。将来、サラリーマンになって幸せになるために、まずは大学進学って決めてるけど、晶子さんたちはどうするの?」
「そうね。晶子はどんな将来の夢を持ってるの?」
朋美も興味深げに訊いた。晶子は少し考えてから答えた。
「わたしは、朋美みたいにリッチでも、一樹さんみたいに庶民でもないから。自分でできることしかできないと思ってる」
「それはどういうこと、将来の夢がないってこと?」
「わたしね、朋美。わたしは、南雲おじさんみたいに刑事になろうかと思ってるの」
「えっつ。刑事?あの警察の刑事?」
屋上のフェンスに持たれかけていた一樹が驚きの声をあげた。
「そんなに驚くことないじゃない。そう、晶子には刑事さん、似合ってるかもよ。第一、女刑事ってカッコいいじゃない」
「朋美はどうするの?」
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