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時間は午後一時三十分、ナツはトボトボと帰り道を歩いていた。一人、寂しーーー
「アイツ、ぜっっったいに許さない、許さないからなぁーーッ!」
寂しくなさそうだった。
むしろ、元気なぐらいだと思われる。
まあ、怒るのも無理はないだろう。何故なのかと言うと、ナツが遅れた元凶でもある、教師(アイツ)のせいなのである。
「何でなのよ。おかしいじゃない、アイツは理由知ってるのにッ!」
落ちてあった空き缶を思いきり蹴り飛ばした。
空き缶は、美しく弧を描き、木に止まっていたセミに直撃をした。セミは飛び去って、どこかへ行ってしまった。
「あーッ!もうッ!」
住宅街の真ん中で、花の女子高生であるナツの怒りは、まだまだ、落ち着かないようだった。
その怒りの原因は約一時間前にさかのぼる。
「安藤さん、どうして遅れたんですか?」
時間は午後十二時三十分頃、補習が終わり、みんなが帰ったり部活に行ったりしてしまい、誰もいない教室でナツと教師は机を向き合わせて座っていた。
教師は少し長めの黒髪にスーツ姿で今年から新任の二十四才の青年には見えない、そんな印象を持った教師であった。
他の生徒からの評判もよく、若いこともあってか、女子生徒の校内付き合いたい人ランキングでも、今年の一学期部門でトップスリーに入るレベルだった。確かに知的な眼鏡の裏にある、切れ長の瞳などは女子が好きなのかもしれないなとナツも何となく思っていた。
しかし、ナツ自身の主観としては、そのような感想を持っていなかった。
「何で教えてくれなかったのさ」
ナツは怒りの矛先を教師に向けて言った。
「寝てましたよね。昨日」
「だから何よ」
補習の最中に、寝ていたにも関わらず。なぜ、ナツの態度はここまで大きいのか理解ができなかったが、怒っているのは、確かだった。
「その時に言ったんです」
「何でそのタイミングなのよ」
「丁度いいかと思ったんですよ」
「何をよ」
「賭け事をするのに」
「人をルーレットみたいに使うなーッ!」
やはり、ナツはこの教師が苦手であった。
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