0人が本棚に入れています
本棚に追加
「や、めて!」
わたしは残る力を振り絞って人影を突き飛ばした。少女が積もり始めた綿の上に倒れ、ガシャン、という音を立てる。綿が舞い上がった。少女の歯車は抜け落ちて、動かなくなった。やたら明るくてどこまでも綿が積もる真っ白な世界で、わたしは横たわる少女を見つめていた。電池がもう底をつく。足を前に出すことさえ出来るかどうか分からない。わたしは少女に覆いかぶさるようにして倒れた。彼女はもう動くことはない。なら、電池も不要なはずだ。わたしは彼女から電池を貰おうと思った。彼女だってわたしから奪おうとしたのだ。立場が逆なだけで行為は同じなのだから、許されないことではないだろう。わたしは彼女の腕をつかんで、
「誰があんたなんかに」
少女がまっすぐわたしを睨んで、言った。少女は体をずらし、わたしを蹴り飛ばした。わたしは少女の横に倒れた。電池が尽きる。何も見えなくなる。最後に見たものは、消えていく少女の瞳に映る、消えていくわたし──
最初のコメントを投稿しよう!