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――――そんな訳はなかろう、と。
「嘘は生け好かねぇな」
その言葉と途端に剣呑な雰囲気が膨れ上がった。まるで喉元に剣先でも突きつけられているような圧迫感。
そして、その言葉と共に、竜崎の鳩尾に不快な衝撃が走る。気づけば自分は吹っ飛ばされ――――、否。
自身の鳩尾を見遣れば、五条啓吾の腕がめり込んでいる。丁度、ラリアットをくらったようになっていた。
どうやら、身の危険を感じた五条啓吾が一瞬で自身の能力を使ったのだろう。霊力で形造られた狼に跨った五条が、自身を連れて逃げ始めた――――竜崎は数秒でその様に解釈した。
「何するんだッ」
それでも痛いものは痛い。それに、あまりに性急。二つの怒りが竜崎を怒鳴らせた。
「何言ってやがるッ! 俺たち二人で敵う相手じゃねぇ!!」
そう怒鳴り返しながら、竜崎を背後へと座らせた。そのまま後方を見遣る。
人影はない。当然だ。車よりも速く走る狼を全力疾走させているのだから。
……いや、そうでなくては困る。自身の売りである脚の速さを超えるものなど、そうそうあっては――――
「いいねえ、雨の中の鬼ごっこ。童(わらべ)の頃を思い出すぜ」
肌が粟立つとはこのことか。五条啓吾は再度振り返った。
――――――――いる。距離はまだあるが、確実にこちらに近づいてきていた。よく目を凝らせば、絹方の足元には無数の鳥が羽ばたいているようで、どうやらそれに乗って移動しているらしい。
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