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宙へと昇った隼が下降し始めた。標的は百足。百足が放たれた弩弓の様に貫かれ、闇に逃げるように消失していった。
その光景を見て、満足げに絹方は頷いた。
「ああ、ああ。そっちの方だったか? その百足、真っ向からにはつえぇが、その他の方向から攻撃されると脆いようだな」
竜崎は内心に舌打ちをした。この男、あまりに戦いに慣れ過ぎている。
(百足に付与した〝不退転〟の呪いをこうも短い時間で見破られるとは……)
毘沙門天の使いである百足は、後退しないという俗信より、不退転の象徴として描かれることがしばしばある。それ故、召喚した百足達に「前方との衝突に必ず打ち克つ」という呪いをもたらした。
竜崎と五条としては、百足に四苦八苦するところを狼で奇襲するつもりであったが、それに繋がる隙が一向に生じない。
(百足は全て出し切った……。五条の狼は――――)
隣の五条を見て、目を思わず見開いた。彼は既に肩で息をしている。体に大した外傷はないように見えるが、狼を一度に大量に生成した影響なのだろうか、既に満身創痍といった体だ。想像以上の状況の悪さに、竜崎は歯噛みする。
「それとよお」
こちらの焦燥を読み取ったのか、追い討ちをかけるかのように絹方が口を開いた。
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