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数瞬の沈黙の後。
「――――必ず、助けを呼んでくる」
そう言い、五条啓吾は狼に乗り、去った。
「いい漢気だ」
「俺ァ、そういうの嫌いじゃねえぜ。違う出会い方をしていりゃ、逃してやっても良かったが……」
言葉を切り、残念とばかりに嘆息した。
「生憎と、急ぎようなもんでな。恨むなら、己の運命を恨んでくれや」
「ふん、生まれてこの方、己の運命なんて腐るほど恨んできていてな。今更恨んだとて、出てくるものと言えば、どうしようもない未練だけだ」
叶坂亜豆菜を以蔵に殺されてから、この世にもう未練などなかった。後にあるのは、彼女との想い出の残骸のみ。
「……なるほどね。すまねえな、余計な話をした」
「気にするな。なんなら、助けが来るまで話していたって、こちらとしては構わない」
「ハハハハッ! そりゃ出来ねえわな」
黄色の隼が無慈悲に展開される。
それに対し、竜崎は
「来い、仄恵丸!」
己が式神を呼び寄せ、応えた。
「それが式神ってやつか。さて、どれほどのものかお手並み拝見――――」
その瞬間、仄恵丸の口が膨らんだかと思うと、轟音を立て、絹方へと豪炎が照射された。
構えていなかった攻撃に絹方は思わずたたらを踏む。炭となって消える隼達。そして、絹方は隙だらけ。その好機を逃す理由など、どこにあろうか。
容赦ない火炎放射が、間断なく絹方を呑み込まんとする。
「――――チィッ!」
絹方は青の燕を足下に生成すると、その鳥達に乗り距離を取った。
「紅鷹(こうよう)ッ」
声高に叫び、紅の鷹が顕れた。一匹だが、油断は出来まい。
「仄恵丸ッ」
呼ばれ、狐の式神は己が役割を全うする。それ即ち、敵の滅却。
紅蓮の炎が敵を焼く尽くす。暴れ狂う雨などお構いない。それ以上の熱気が、彼のモノ達を煉獄へと導くのだから。
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