白銀の彼方で

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一人の少年が薄暗い冬の山を疾駆していた。夕陽を遮る分厚い鉛雲は視界の悪さに一層拍車をかけ、積もる雪は険しい獣道すら掻き消していた。数キロも歩けば、遭難者となり果てる魔境。 昨日積もった雪は静かに溶け始め、黒々とした山の地肌が所々、白む空を虚ろに仰ぎ見ていた。それはまるで、少女の屍から蛆が湧いているかのような情景。 「……っ」 少年は何度も雪に、枯葉に、木の根に足を取られながらも懸命に走り続ける。 風の音すらなく、そこはまるで世界から閉め出されてしまったかのよう。その黙殺された空間を、裂くように少年は進む。少年は思う。体がこんなにも寒いのは、汗のせいなのだ。決して、断じて、嫌な予感とか悪い虫の知らせではない、と。 今はその希望的観測に身を任せ、前進するしかなかった。 少年は走る。懸命に。既に間に合わないと何処かで分かりつつも。 まるで操り人形だ。それに加え、数キロの全力疾走による疲労もある。それはより一層、少年の走りを傀儡のようにして見せた。
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