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何処か遠くで、よく聞き覚えのあるベルが鳴った気がした。続いて、周囲が俄かに騒がしくなる。 ────煩い。不快指数がぐんと上がる。
揺蕩う意識の中、少年は漸くそのベルの正体が、授業終了を告げるものだと思い至る。マズイと思った少年は全身に残る倦怠感を押さえつけ、即座に立ち上がった。
「礼」
一拍遅れて、皆と同じく礼をする。そして教室が騒がしくなったと同時に少年は椅子へともたれ込む。天井を仰ぎ、ため息を零した。
────嫌な夢を見た。
少年は再度嘆息し、窓の外を見やる。窓は開いており、そこから心地よい風が入っては少年の雑草のような黒髪を攫う。精悍な顔立ちにはにわかに憂いが滲んでいた。
夢の中に出てきた幼馴染────叶坂亜豆奈(ようさか あずな)が死んでから四年が経過した。
少年は今年の春より晴れて高校二年生となり、その生活も既に三ヶ月が経過している。クラスメイトも余り変わらないとは言え、環境は変わり、受験生への前準備の期間として、教員達は生徒達を勉学に隙あらば捲し立てた。
だが、全くもって勉強など興味のない少年にとっては、ただただ授業という時間が苦痛でならなかった。
数学の訳の分からぬ公式や世界史の似たり寄ったりの片仮名の偉人や地名、そして道具達。赤の他人の登場人物の心情など、知る由も無い。そんなものを知って、どうだというのか。命の危機に瀕した時に、それらは一体、如何程の助けになると言うのか。
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