序章 虐殺妃と呼ばれた女

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無実の者を陥れ、民を欺(あざむ)き、醜い所業を成してまで、権力という飴が恋しいのか。 甘さの裏に隠れた、棘まみれの茨のような鞭がふりかかることすら知らずに。 親王一派の所業を思うたび、彼女の脳裏を怒りが焼き尽くす。 思えば、彼らとフランチェスカは互いに相容れることのない存在だった。 深紅の薔薇のような華やかな美貌とずば抜けた才気を完全に持て余し、宮廷では孤立していたフランチェスカ。 前王妃の亡き後、政略結婚の駒として嫁いだ異国の姫君に、味方は少ない。 王との間に子どもを授からないままだったという事情もまた、彼女の足を更に引っ張った。 彼女を妬むもの、利用しようと企むもの、陥れようと策を弄(ろう)するもの。 生来の厳格さと直情さ、頭の回転の速さは、権力という魔性にとりつかれた魑魅魍魎の跋扈する宮廷において、役に立たないどころか周囲から疎まれる材料となった。 そんな中で、フランチェスカの唯一の救いが、家族だった。 今は亡き国王と、王女・クレアラータ。二人とも、常に醜い権力争いの鳥瞰図が拡げられている宮廷とは、別世界の人間だった。 温厚で、心やさしい親子。 雪国という、自然の厳しい慣れない土地に嫁いだフランチェスカを常に労わり、心を配ってくれた優しく、穏やかな親子が、彼女にとって一番の心の支えだっだ。 国王が病に倒れた時も、血のつながりはなくとも、この心優しい娘を守っていこう、そう思っていたばかりだ。 しかし、その決意は奸臣達によってたかって踏みにじられ、彼女と義理の娘を結ぶ絆は蜘蛛の糸のように細く、頼りないものとなってしまった。
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