第二章 黒の森の奥へ

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「審判の魔女の居所をつきとめたのは、魔女と接触するためですか?」 「そうです。明日の安息日を利用し、クレアラータ様が直に黒の森へ、審判の魔女に会いに行かれます」 地図に記された印と、自分たちの今いる地点を見比べる。 宿舎から黒の森までさほど距離は無いが、森の入口から印が付けられた所までは、かなりの距離があった。 「王女様が……!?そんな、無理です。ただでさえ、お身体の弱く、今回の視察でさえ病をおしていらっしゃる。こんな長距離を、しかもこんな悪天候の中、移動するなど」 「中佐も私も同じ理由で、王女様を止めようとされてました。当初は私と中佐、そして貴殿が魔女のもとを訪ね、王女様の所へお連れする、という手はずを考えていたのです。しかし、あのお方の決心は固い」 「ですが、間に合いますまい。こんな長距離を、馬を使っても、あの“黒の森”です。万が一、遭難ということになってしまったら……私たちはともかく、クレアラータ様は……」 伯爵は書記官の手をとると、強く握った。 「あなたのその強い忠誠、王女様もさぞや喜ばれることでしょう」 しかし書記官は半ば激昂するように、伯爵の手を振り切る。 「私の忠誠心など、そんなことはどうでも良いのです!!王女様のお身体に、御命に万が一の危険があるような、そんな――」 「ありがとう、ネル書記官」 聞き覚えのある、かすかな鈴のような声が書記官の耳に届く。 コツ、と靴の音が書記官の背後で響いた。 「!?」 思わず背後を振り返った書記官の目に映ったのは、王女クレアラータ、その人だった。 「お、王女様!?」 ドレスの裾を持ち上げ、優雅に頭を下げる。 「ネールズ殿、申し訳ありません。お話は全て、そこで聞かせて頂きました」 そう言って王女が指差したのは、寝台の後ろの、クロゼットだった。
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