第三章 王妃と囚人

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薄暗い地下牢の壁に、蝋燭の明かりが揺らめく。 「う、うう……」 寝台の中で、一人の男が目を覚ました。 重たい体を持ち上げると、背後で鉄格子の扉が開く。 「おお、目を覚ましたな。大丈夫か?」 「……?」 男のぼやけた視界が明瞭になっていく。 誰に言うともなしに、呟いた。 「ここは?」 白衣を着た老人が、男の脈をとりながら、語りかける。 「それに答えてやることはできんが、まあ、これを飲みんさい」 薬湯を飲ませてやると、男は茫然と、半ばなすがままに器を空にした。 「俺は、死んだのか……?」 自分の手のひらを見つめ、老人に問いかける。 「いや、お前さんは生きとるよ」 老人は空になった器を受け取ると、寝台の横に置いた。 「勝手に死ぬな」 「!?」 背後で、やけに明瞭な女の声が響いた。 「お前が自害を図ったせいで、レブラン医師に迷惑がかかったし、予定も狂った。とりあえず、先生に謝れ」 やけに良く透る、そしてやけに権高な声が、暗欝な地下牢にこだまする。 豊かな栗色の髪と白い肌。そして血のように真っ赤な双眸が、ランプの明かりを反射してきらめいた。 「……あんたは」 男の目が、見開かれた。 「虐殺妃……」 呆然と呟いた男の前に、桶を放り投げる。 その中には、湯気をたてる布巾が入っていた。 「ふん、陰ではそのように呼ばれているらしいな。とりあえず、これで顔をふけ」
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