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薄暗い地下牢の壁に、蝋燭の明かりが揺らめく。
「う、うう……」
寝台の中で、一人の男が目を覚ました。
重たい体を持ち上げると、背後で鉄格子の扉が開く。
「おお、目を覚ましたな。大丈夫か?」
「……?」
男のぼやけた視界が明瞭になっていく。
誰に言うともなしに、呟いた。
「ここは?」
白衣を着た老人が、男の脈をとりながら、語りかける。
「それに答えてやることはできんが、まあ、これを飲みんさい」
薬湯を飲ませてやると、男は茫然と、半ばなすがままに器を空にした。
「俺は、死んだのか……?」
自分の手のひらを見つめ、老人に問いかける。
「いや、お前さんは生きとるよ」
老人は空になった器を受け取ると、寝台の横に置いた。
「勝手に死ぬな」
「!?」
背後で、やけに明瞭な女の声が響いた。
「お前が自害を図ったせいで、レブラン医師に迷惑がかかったし、予定も狂った。とりあえず、先生に謝れ」
やけに良く透る、そしてやけに権高な声が、暗欝な地下牢にこだまする。
豊かな栗色の髪と白い肌。そして血のように真っ赤な双眸が、ランプの明かりを反射してきらめいた。
「……あんたは」
男の目が、見開かれた。
「虐殺妃……」
呆然と呟いた男の前に、桶を放り投げる。
その中には、湯気をたてる布巾が入っていた。
「ふん、陰ではそのように呼ばれているらしいな。とりあえず、これで顔をふけ」
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