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「お前さんの審判は、確か明後日だったねえ」
何故それを、と言いそうになり、フランチェスカは口をつむぐ。
まさか、この老婆も親王の仕組んだ罠なのか。
身構える王妃に構う様子もなく、老婆は格子越しの真紅の双眸をじっとのぞきこんだ。
「いいかい。一度しか言わないから、よーくお聞きよ」
皺だらけの顔を近づけ、耳打ちする。
「審判の時、親王は阿呆にも私の偽物をこさえてくるのさ。まあ、あの坊っちゃん専属の占い師なんだけどねえ」
そう言うと、老婆は黒のロープをまくり、腕に刻まれた複雑な模様の刺青を指差した。
「審判の魔女には、この“時の神”のタトゥーが必ず両腕に刻まれているのさ。そこを指摘しておやり。魔女の名を騙るのは、大罪。それはお前さんが昔読んだ古文書に書かれているから、弁護士にでも用意しておいてもらうといい」
古文書に書かれていた言葉を、フランチェスカはおぼろげに思い出す。
“審判の魔女とは、女神の神託を下す巫者である。すなわち彼女らは神意を汲むもの、まつろわぬ時の神の末裔”
突然現れた、怪しげな黒衣の老婆の言葉を鵜呑みにすることに抵抗はあるものの、彼女は「審判の魔女」の言葉を脳にしっかりと刻みつけた。
「おやおや、そろそろ牢番が起きちまうね。それじゃ私は、ここらへんでおいとまさせてもらうよ」
「あ、あの、お礼を……」
要らないよ、とつぶやくと老婆は踵を返した。
しかし、ふと何かを思い出したように立ち止ると、フランチェスカの方を振り向いた。
「あんた、親想いのいい娘を持ったね」
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